【Jリーグ】秋春制移行の是非について、公式動画を参考に考えてみる

サッカー

Jリーグの目指す姿

ここからは後編の動画。
Jリーグ発足30周年を迎えた2023年。更に30年先を見据えたビジョンを語った。

昔のサッカーであれば欧州とも”大差”はなかったが、ここ十数年で差が広がった。そして世界に広がる大衆的なスポーツであるサッカーは世界との闘いは避けられない。そのため、次の30年に向けて、Jリーグの理念をベースにさらなる成長を遂げたいとのことだった。

  • 日本サッカーの水準向上及びサッカーの普及促進
  • 豊かなスポーツ文化の進行及び国民の心身の健全な発達への寄与
  • 国際社会における交流及び親善への貢献


これらの3つがJリーグ理念である。

次の30年ではJリーグが世界一のリーグとなり、ワールドカップ優勝などを目標としているが、あまりにも抽象的なため次の10年で目指す姿を示した。

まずはアジアで勝ち、世界と戦うJリーグ。欧州所属日本人選手とJリーグ日本人選手による日本代表、そしてJ1だけではなく、J2, J3を含めた経営規模を1.5倍~2倍化する計画。これらを10年後に到達した上で、先程述べたようなワールドカップ優勝を目指すと説明されていた。

『次の10年』で目指す姿

ACLの詳しい事情については省略するが、まずACLを4年中2回は日本クラブが優勝。CWCも日本から2クラブ以上を送り出す目標を掲げている(=1クラブ以上ACL優勝=CWC出場は必達と発言されていた)。

経営規模は浦和レッズで80億円規模。対して世界は41位~60位程度でも230億円程度の経営規模となっている。
そのため、チャンピオンズリーグではベスト8に200億円規模のクラブが1つ入ってきたりするため、まずはそこを目標(CLベスト8に入れる経営規模)にして規模を拡大していきたいとのこと。

また”Jリーグの中に世界基準”を作るといった構想のもと、世界で戦えるJリーグを目指し、代表選手のうち30%(現在15%程度)を目指す。経営規模はここ10年程度で各カテゴリごとに差はあれど、1.5倍~2.5倍程度になっており、ここから先も同様に安定して規模を拡大できるかは別として、継続して規模拡大に尽力するとのこと。

世界と戦うフットボール

アジアで戦い、世界で戦うフットボールの構築。そしてJリーグ内に世界基準を作る(Jから代表選出, 海外移籍など)、欧州も参加するクラブワールドカップではベスト8以上を目指すなど、次の10年は世界で戦う・戦えるJリーグを目指すことを強調していた。

海外からの収益獲得

国内大会や企業からの収益だけではなく、国際大会や海外移籍による収益増加を目指している。同時に、グローバルコンテンツとなるクラブが登場することにより、Jリーグを観たいという海外層の増加糸もない放映権料も増加し、収益に繋げるということだ。

競争環境の構築

今までは競争というよりも、”共存“状態であった。そのため、配分金比率を変更し、上位リーグ・上位クラブへの比率を高め、より競争が生まれやすい可能を作った。
一方でJ1への間口を広げ、競争を勝ち上がれば上を目指しやすい(逆に言えば負ければ落とされやすい)状況を作った。また新理念強化配分金などにより、上位カテゴリのみに偏りが発生しないようにしている。
ルヴァンカップは来年度からJ1-J3全クラブ参加のトーナメント方式にて実施予定で、上位カテゴリ対下位カテゴリでは必ず下位カテゴリをホームとして置くことにより、下位カテゴリクラブでの関心度を集めたいとのこと。

各地域での圧倒的な露出

新しいローカル番組を立て、地域の人々への認知を高める。そしてJリーグ本部からもスタッフを各クラブごとに専任し、運営やメディア露出を含めた支援を行っていると強調。

適切にスポーツを楽しめる環境づくり

先程のようなJリーグ理念に基づいたスポーツ・健康への寄与。
そして秋春制移行によって取り沙汰される降雪地域でもスポーツが楽しめる環境づくり。また気候変動下でも全国でスポーツが楽しめる環境を維持構築していくのが、次の10年で目指す姿。

筆者の小言

とりわけひしひしと感じたのは、Jリーグ(クラブ)世界で戦うリーグに舵取りをしたという点。

遠い将来として掲げる目標はワールドカップ優勝。その前置きとして、まずはアジア制覇・CWC常連の土壌を作る。そのためにはまずJリーグ内では競争力を高め、しのぎを削りあいながら戦える舞台を整える。

高みを目指せば目指すほど得られるリターンも大きくなる仕組みは、当然競争を激化せる起爆剤にもなり、伴って選手・クラブの発展や成長に繋がるというのは確かに理にかなっている。ただしその反動にで、クラブは財政的プレッシャーにさらされるのはもちろん、圧倒的財政力格差による不均衡なリーグの誕生に繋がらないか、少し不安なところである。

特に地方クラブはそうだ。”地域に根ざした”クラブ運営が多い中で、巨大スポンサーを抱えるクラブと比較したら明確な”格差”が生じる。競争するリーグへの選択をしたため致し方がないのかもしれないが、現時点で下位リーグに属するクラブには、相応の”努力”が求められてくる予感。

この格差は議題に挙がる降雪地域クラブにも関連し、連続アウェー7連戦、冬季は本拠地以外でのキャンプといった不公平な状況を、ただ甘んじて受け入れさせるのか、公平を期すサポートをするのかによって、移行議論の風向きが変わる予感。

ついでにもう一つ不安な点は、海外からの収益について。ただしこれは本来の秋春制云々ではなく、Jリーグ自体への疑問だ。
現在Jリーグを独占放送しているDAZNも外資のため、海外からの収益として考える。Jリーグは2023年から2033年まで、約2,400億円でDAZNに放映権を販売した。視聴環境は好転したか。否、若干悪化を辿っている(気がする)。

DAZN側の収益の都合もあり、海外主要リーグが日本から視聴できなくなり、法的にグレーゾーンであるオンラインカジノ(無料版)のプロモーションをコンテンツ内で強制的に表示されるようになった。リーグ理念にある、”豊かなスポーツ文化の進行及び国民の心身の健全な発達への寄与“とは乖離してきているのではないかと感じる。
(まあスポーツくじをオフィシャルで打ち出しているから半ば誤差のようなものかもしれないけど)

Jリーグチェアマンのインタビュー

動画も終盤。ここでJリーグチェアマンである野々村氏がインタビューに答えた。

一番大事にしないといけないのはJリーグの理念

「”日本サッカーの水準向上及びサッカーの普及促進”のために、夏場の試合を減らすとか、そのためになるものかどうかが重要。”豊かなスポーツ文化の振興及び国民の心身の健全な発達への寄与”をするために、冬場のサッカー環境を国内でもっと整えていくってことをもっと言い合っていかないといけないし、やらないと思っている」
基本的なスタンスとしては、Jリーグ理念のためという大義のもとで、秋春制移行の話をされていた。

当然だが雪国の話にも繋がった。北海道や雪国の人は冬場にサッカーはできない(屋内でフットサルはできるが広いコートを使ってサッカーというのは難しい)。それってこの先30年もそんなんでいいの?って思う。

秋春制移行の議論を進めることによって、降雪地域のスポーツ環境や観戦環境の改善を促進させたい話しぶりだった。

「Jリーグを見直す」という困難な道へ突き動かした想い

以前は国内リーグのことでいっぱいだった。選手が世界へ向かう中で、現場スタッフを含め海外に目を向ける方向へシフトしないといけない。日本のサッカーは絶対に良い。でもあるところよりも下に見られているのが腹に立つ。日本らしく追いつきたい。

後半は世界に羽ばたき戦うことを前提とした話となり、次のステージへ移行するための機会として議論している雰囲気を感じた。

Jリーグのこれら(片野坂氏)

「ローカルをグローバルに向け始めた。選手たちが世界と戦っている中で、クラブやリーグも世界に意識を向ける時であり、その一つの案として”移行”というのをみんなとやっていくことが必要だと感じた。」

やることはできる限り”想定内”の中で抑えておき、段階的に環境を改善していくことが重要だと解きつつ、シーズン移行は日本サッカーのこの先を考えたら必要だと思う。60クラブファンサポーター関係者が納得できる形で進めるのがベストで、話し合って魅力的なJリーグになって欲しいと話した。

Jリーグのこれら(成岡氏)

みんなを巻き込んで知ってもらって一緒に作り上げていくJリーグも良いとしつつ、シーズン移行によって10年20年先が明るくなるようになった。問題がある中でみんなで良いところを選び、Jリーグの成長を作り上げて欲しいと話した。

Jリーグのこれら(内田氏)

シーズン移行の是非をハッキリすればいいと思っていたが、いろんな立場・環境の人がいる中で、誰も置いていけない。だからゆっくり大事に会議を進めているんだと思った。もう少し話が進んで解決法が具体的に出たら、考え方がどう変わっていくのかまで追っかけられたら話は進んでいくと思う。

筆者の小言

最後の小言なので少し長くなる。

まず野々村チェアマンの話は大方同意できる。雪国では冬場にサッカーができる環境はない。降雪地域のスポーツ環境、観戦環境を整えるというのは、Jリーグの理念としても決して外れていない。30年後も全クラブ全スタジアム現状維持はありえないだろうし、着実に環境を整備して、下に見られないリーグの礎を築く必要は確実にある。

だが過去・現在・未来に掲げている地域に根ざしたスポーツクラブの構想(Jリーグ百年構想)を考慮すると、少しばかり疑問が拭えない。
秋春制A案移行後のJ3では、ウィンターブレイクをはさみ最大9試合連続でアウェーとなるクラブも存在する。ウィンターブレイクを含めると3ヶ月以上、シーズン中であるにもかかわらずホームで試合は開催されず、また降雪の影響を避けるため本拠地以外での練習を余儀なくされる。

日程調整面では、日本は新年度4月スタートの都合上、スタジアム利用の調整が非常にやりづらい(6月頃に新シーズン日程が定まるため)。市営県営の陸上競技場兼球技場を間借りしているクラブが多い中、地元サッカーのためだけに、新年度開始後のスケジュール調整にどれほどの自治体や他のスポーツ協会が協力してくれるかは未知数。

またこれも再三書いているが、降雪地域クラブへのサポートが不十分なのではと感じている。

J1新潟社長「地域密着クラブにとって屈辱」 秋春制に反対 | 毎日新聞
J1新潟の中野幸夫社長は、一貫してシーズン制の「秋春制」への移行に反対している。毎日新聞の10月12日の取材に「移行するメリットを感じられない。今まで約30年、ここまで発展してきたことに自信を持って、ここをベースにさらなるステップアップを考えるべきだ」と語る。

ちょうど本稿を書いている際に見かけた記事だが、降雪地域である新潟は明確に秋春制反対の立場を示した。過去に幾度となくリーグ側と意見交換を行っているであろうに、非常に力強い表現で反対されている。果たして移行後の降雪地域クラブへの影響はどの程度なのか。ウィンターブレイク前後のサポート面や施設拡充に関する具体的な説明はなされているのか、甚だ疑問に感じた。
(※カターレ富山からの情報では、移行に伴う追加キャンプ費用の補填をJリーグが行うことが決まったと公言している)

2026年夏に導入とすれば残された年月は3年弱。シーズン開幕・閉幕移行の過渡期(2025年ー2026年)は1.5シーズン,0.5シーズン問題もあるため、来年の今頃にはある程度の枠組みが出来上がっているとは思う。その頃に、一部地域を見限った世界志向となっているのか、地域を見放さない世界志向となっているのか。野々村チェアマンは長年北海道で尽力されていたこともあり、雪国を半ば切り捨てる内容にまとまらないとは思うが、果たして…。最終的な結論は2023年12月頃の理事会で決まる。

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