重要な追記(2023年3月17日)
FC神楽しまね(旧松江シティFC)は、2023年3月14日に破産手続きを開始しました。
以下の記事は破産手続き以前に作成した内容です。
2023年2月に書いた記事
FC神楽しまねの軌跡
2011年 NPO法人松江シティスポーツクラブ設立
(中国リーグ所属のヴォラドール松江が母体。チーム名も松江シティFCへ変更。)
2014年 中国リーグ優勝(地域CL1次ラウンド敗退)
2015年 中国リーグ優勝(地域CL1次ラウンド敗退)
2017年 松江シティFC株式会社を設立
2018年 中国リーグ優勝+全国地域CL優勝(地域1部からJFLへ昇格)
2019年 JFL初参入(15位)
2020年(JFL10位)
2021年(JFL5位)
2022年2月1日 チーム名をFC神楽しまねに変更
同年7月 選手,社員,スタッフに対して給与の未払いが発覚
同年12月3日 JFL残留審議の判断材料がそろわず審議継続
臥薪嘗胆の日々
全国地域CL進出条件は色々とややこしくなるため割愛。チーム名変更前の松江シティは2014年、2015年、2017年に地域CLへ進出するも全て1次リーグで敗退。
2018年地域CL優勝までの8年間、中国リーグ(J基準で表現するとすればJ5)で苦しみ続けた。コアなサポーターにとって、18年のJFL昇格はサポにとっても一段と感慨深いものだったはず。
新たなチャレンジとチーム名変更
JFLへ昇格したからといってすぐにJ3へ上がれるわけではない。JFLで成績を残し、更に百年構想クラブへの認定がされている必要がある。
諸々の条件を満たせていなかった松江シティだが、2024年頃にJ3参入を目指すと明言。
コロナ禍も乗り切り、2022年にチーム名をFC神楽しまねに変更。それに伴いチームエンブレムも変更。Jの舞台へのスタートラインに立った矢先の出来事。
給与未払い問題
2022年7月末頃、FC神楽しまねが選手やスタッフに対する給与の未払い・遅延をしていることが発覚。
更に次の記事では、未払いの経緯や詳細が確認できる。
そんな中、6月に異変が。選手・スタッフは年俸を月割りにして毎月25日に支払われることになっているが、数日前に突如、クラブを運営する松江シティFC株式会社の宮滝譲治代表取締役社長が練習場を訪れた。
https://soccermagazine.jp/_ct/17586642
「6月分の給与の支払いが遅れる、と言われたんです。月末になるような話だったのですが、いきなり言われても、と選手側から伝えて、25日に50パーセント、月末に50パーセントが支払われました」
神楽しまねは19年のJFL昇格以降、全国リーグ参戦による遠征費の増加や、コロナ禍の影響などで苦しい経営を強いられていた。6月は満額となったものの、遊馬が「もしかしたら、と思っていた」という7月、事態はさらに悪化する。宮滝社長が再び練習場を訪れ、7月分の給与は支払えないと選手・スタッフに告げた。
「ちょっと待ってくれ、という感じです。結局は8月上旬に、7月分の40パーセントが支払われました」
経費削減の手段は色々とあるが、給与を削るのは経費削減の中でも最後の砦である。
事前に選手としての契約も済ませているため後から減額なんてことできなかったのだろうが、シーズン開幕前後から相当不安定な状態だったのだろう。
契約の内容次第では勝利給や出場給がある。勝てば勝つほど(ゴールが決まれば決まるほど)クラブの支出は増える。フロントとしてはここまで心苦しいシーズンはなかっただろう。
訴訟
この裁判は、サッカーJFLのFC神楽しまねの下部組織でコーチを務めていた25歳の男性が、未払いとなっているおよそ3か月分の報酬などあわせて132万円の支払いをクラブの運営会社に対して求めているものです。
https://www3.nhk.or.jp/lnews/matsue/20221130/4030014581.html
30日、松江地方裁判所で始まった裁判にクラブの運営会社側は姿を見せず、「今後、弁護士を立てることを検討していて、訴えに対する認否や反論は次回の期日以降に行う」などとする答弁書を提出して具体的な回答はしませんでした。
(中略)
FC神楽しまねをめぐっては、これまでにも選手やスタッフの給与が未払いとなるなど、資金難が表面化しています。
訴えを起こしたのは、FC神楽しまねで今年10月上旬までジュニアユースのコーチを務めていた男性です。
NNプライムオンライン https://www.fnn.jp/articles/-/452408
今年4月から来年1月までの10か月間、月20万円の報酬でコーチ契約を結んでいましたが、7月分の報酬の一部、8月以降については全額の支払いのめどが立たないことから契約を解除し、裁判で未払い分の報酬と違約金、合わせて132万円の支払いを運営会社「松江シティFC」に求めています。
先述の通り、給与の未払いは選手に限った話ではない。クラブを運営するスタッフ陣も同様に不払いがなされていた。初回の裁判について、クラブ運営側は出席せず答弁書を提出するにとどまる。
J3昇格にはユースクラブの運営実績等も必要となる。従前ユースクラブ設立断念の報道が出ていたため雲行きが怪しそうな気配ではあったが、ジュニアユーススタッフにすら給与が支払えるような状況ではなかったとは…。
※J3参入条件にU18,U15,U12のカテゴリにて最低でも1つの下部組織を運営している必要がある。
また神楽しまねにはプロ契約選手がいる。
クラブとはプロ契約を結んでいるものの、給与未払いなどの事態が起こった場合はアルバイトも可能との条項があり、宮滝社長の了解を得て8月からアルバイトを始めた。クラブをサポートしている洋菓子店の求人を見つけて応募し、火曜、水曜、金曜の週3回勤務。午前中の練習が終わった後、19時や20時まで働く日々が始まった。
https://soccermagazine.jp/_ct/17586642
どういった契約かは分からないが、プロ契約であれば概ねサッカーだけで食べていける(選手の生活水準は内容による)。
事前にアルバイト可能といった条項を用意していたあたり、今回のような最悪の事態を想定していたのだろうが、経営が安定しない最中、本当にプロ契約を結ぶほどの余力があったのかと(経営が適当すぎたのではないかと)、外から見ていて思った次第。
長年の債務超過
FC神楽しまね 松江シティFC株式会社を助けて下さい。
https://www.fc-kagurashimane.jp/news/news-club/2322
(中略)
2017年4月会社設立当初より、債務超過を繰り返し、毎年厳しい状況にある中、株主様、スポンサー様、ファンクラブ会員様、サポーターの皆様、関係各位の皆様からのご支援を賜りながら、経営を行ってまいりました。
しかし、2022年シーズンは、我々の努力不足も重なり、さらに厳しい状況に陥り、選手・スタッフ・社員全員に対して6月分の給与は2回に分けての遅配、7月25日には給与の未払いを起こしてしまいました。
ここで冒頭に書いた簡易な年表を思い出して欲しい。
不自然な赤色アンダーラインを引いていたと思うが、このアンダーラインの年度は債務超過が疑われる年度。
(※債務超過を”繰り返し”なので、2017年から現在に至るまでずっと継続して債務超過状態だったのかは不明。ただし書き方的に以前から相当よろしくない状態だったのだろう。特に新型コロナが流行し始めて以降は…)
債務超過に陥ったからといって即座に倒産と言うわけではないが、少なくともバランスシート的によろしくない。当然いずれは返済を迫られる。これが続けば負債のみが貯まり、最終的に会社存続の危機に陥る。
Jリーグの基準では3期連続の債務超過ないしは赤字の場合、J1やJ2への参入資格を失ったりする。JFLからJ3も同様に、J3入会前年が債務超過をしていないことが入会条件の一つ。無茶な強化を繰り返してシーズン途中・前後にクラブの運営ができなくなったり、リーグ全体の年間スケジュールを崩さないためにも必要な条件ではある。
地方クラブはスポンサーにも恵まれないことが多く、神楽しまねも地方零細クラブの一例。選手への支払いもできないということは、ここ数年、半ば自転車操業状態だったことは想像に難くない。
(それでも神楽しまねは島根県内に存在するサッカークラブで最も高いカテゴリに属していた)
限界を迎えた末
いよいよ首が回らなくなった末に行われたのが
緊急支援のお願い。
個人も法人も問わない。クラウドファウンディングのようにリターンもない。ただし希望者は名前(もしくはニックネーム等)をウェブサイト上に記載するというもの。本当にクラブを救うための最終手段に打って出た。
また決済方法についてだが、
クレジットカードやコンビニ決済だと入金が当分先となるため、銀行振込を希望していた。
本当に今日明日を食いつなぐのですら精一杯だったことが伺える。
緊急支援リリースが出たのは7月末頃。ほどなくして次のようなリリースが出た。
選手の退団と移籍である(同タイミングで期限付き加入選手が別チームへ移籍するリリースも出ていた)。
Jリーグで夏の移籍期間中に移籍というの多少なりあることだが、シーズン途中に退団というのは稀なケース。
クラブとしても選手としても本意ではなかっただろうが、そうせざるを得ないほど追い詰められていた証左である。
社長と選手とサポーターと。
中断期間明け、例の緊急支援や退団後はじめて行われたホーム試合後の出来事。
ツイートや動画が削除された際に備え、簡易ではあるが書き起こしておく。
中断期間明け最初のホーム試合後、メインスタンド前での挨拶
宮瀧社長:残り10試合、選手たちと共に戦い抜く為にも、ご声援よろしくお願いいたします。
(スタンドから拍手が沸き起こる)
佐藤選手:それじゃ納得しないですよ。見てるみなさんを納得させてください。
佐藤選手:これからどういう風にしていくかということを、今どういう風に取り組んでいるかということを、言ってくださいよ。
(スタンドから拍手が沸き起こる)
佐藤選手:このまま選手と共に走る抜けるって、どうやって走る抜けるんですか。そこを言ってくださいよ。
垣根選手:もう少し中身を言わないと。今こういう取り組みをして、どう改善していくかをもっと伝えないと。
(社長は涙ながらにうつむく)
(社長からマイクを譲ってもらう垣根選手)
垣根選手:いつも応援ありがとうございます。
垣根選手:正直先の見えない厳しい状況ですけど、また新たにスポンサーになってくださる方々を、一生懸命、選手・スタッフ・フロントスタッフ全員で協力して募り、より多くのスポンサー支援をしていただけるように、日々努力しています。
垣根選手:僕たちは100%で戦いますので、今後ともよろしくお願いします。
垣根選手:今日は本当にありがとうございました。
(選手・スタンドから拍手が沸き起こる)
観客がいる前で繰り広げられる生々しいやり取り。むしろ観客がいる前だからこそ、選手は繰り広げたのかもしれない。
神楽しまねの選手やサポの感情を逆撫でするつもりはないが、少しだけ社長の擁護をさせて欲しい。
YouTubeの動画で宮瀧社長のインタビューが出ている。
(複数本動画が上がっているため時系列順で見たい人はこちらから→① ② ③ ④)
島根で長年教鞭を執り、島根に初めてのJリーグチームを誕生させることを目標として、2017年~18年頃から週末は栃木SCの現場へ訪問、試合のない時は関東圏のクラブを訪問したりと、スポーツ経営についてのノウハウ吸収の努力をしていた。SHCにも通っていたとのこと。
コロナ禍以前からも定期的に松江シティのお手伝いとして定期的に島根に戻っていたが、コロナをきっかけに島根へUターン。2020年8月、正式に松江シティへ入社となったらしい。
社長への就任は2022年4月1日。本稿でも記述しているが、債務超過を繰り返していたのは2017年頃から。
1年半程度社員として勤務し、松江シティの内情もそこそこ理解していただろう。そんな最中、前任の代表取締役会長が退任した。導火線に火の点いた爆弾であっても、誰かが抱えにいかなければならない。
どのような経緯で宮瀧氏が社長へ就任したのかは分からないが、こうしたクラブの状況下で社長へ就任することは相応の勇気がいるし、宮瀧氏の島根にかけた思いは十分に理解し得た。
責任の所在は当然現在の社長である宮瀧氏に向かうが、2022年シーズン開幕よりもっと前から爆弾が爆発しかけていたのであれば、彼だけに矛先が向けられるのは少々酷かもしれない。
(でもやっぱこの規模感のクラブで選手とプロ契約はちょっと…。)
(あと昨今の収支に関してはもう少しサポへ報告しないと納得できないのでは…。)
FC神楽しまねの今後
2022年12月17日現在、契約更新リリースは1件も出ていない。
出ているリリースは選手退団ならびに移籍先チーム決定のお知らせくらい。
島根の将来を考えるのであればチームが解散となる未来だけは避けなければならないが、支援の呼びかけを行うほど切羽詰まった状況で、現在どれだけの余力があるのかも不明。僅かながらの希望を挙げるとすれば、ジュニアユースが島根県大会1回戦突破のリリースと下部組織メンバー募集のリリースを出していること。
少なくとも12月11日時点ではまだクラブの体裁は保てている。だからと言って現状は何も変わらない。
追加の融資や新規スポンサーを獲得して経営の健全化を図るのが急務であるが、いずれにせよ痛み(主に選手やスタッフへの給与面)が伴うのは間違いない…。
JFL残留についてもまだ審議が継続されている状況ではあるが、クラブが目指すENJOYのサッカースタイルを確立していって欲しいところ。最悪の結末だけはなんとか避けれますように…。
※進捗があり次第、本稿に追記もしくは別記事で投稿予定。
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