2023年11月末、とあるニュースが流れた。
審判員への異議などで一時退場「シンビン」試験導入へ 国際サッカー評議会 7月新シーズンから
競技規則を定める国際サッカー評議会(IFAB)は28日、ラグビー規則にあるシンビン(一時退場)を試験的に導入する方針を固めた。
審判員に異議を唱えた選手などが対象。アマチュアなどで実施して一定の成果が表れたことを受け、今後プロでの採用を検討するという。特定の場面で主将以外の選手の主審への接近を認めないことや、審判員へ敬意を欠く振る舞いを見せた選手らにより厳格に適用することも検討。来年3月の総会で承認されれば、同7月に施行される新シーズンの競技規則に盛り込まれる。
審判員への異議などで一時退場「シンビン」試験導入へ 国際サッカー評議会 7月新シーズンから – 日刊スポーツ
上記の内容および他の記事をもとにざっくり説明すると、イエローカード以上だけどレッドカードではない、“一時的“にお灸を据えるルールが導入されるかもしれないということ。
ここから詳しく深掘りしていくのだが、いいから結論だけ読ませろという方はココをクリックするか、下の方までスクロールして欲しい。
そもそもシンビンとは
シンビン(英:sin bin または sin-bin)は、ラグビーにおいて、危険なプレーなどにより、一時的に試合から離れることを命じるルールのことである。
「シンビン」は「Sin=罪、違反」と「Bin=入れ物、置き場」を合わせた造語であり、ラグビーにおいては競技区域から一時的に退出させられることを指す。アイスホッケーの「ペナルティーボックス(一時退場者が出場停止時間中入るベンチ)」とほぼ同じものである。
wikipediaより引用
ラグビーなどの競技では既に導入されている規則で、危険・悪質なプレーを行った者に対して一時的にフィールドから離れるよう命じるルールのこと。
ラグビーの場合イエローカード=シンビンで一時退出。(退場ではなくあくまでも退出)
その間は他の選手スタッフを含めた関係者との接触が禁止されており、指定されたエリアから出ることも禁じられている。
サッカーにも同様のルールを適用させよっか?というのが今回流れてきたニュースの本筋。
IFAB(国際サッカー評議会)とは
ついでに最初に引用した記事に出てきたIFABについても言及。
IFABとは、FIFA(国際サッカー連盟)に加盟している、サッカーの競技規則を含めた重要事項を決定する組織。
各国サッカー連盟の競技規則はFIFAが定めた内容に則っている必要があるのだが、その競技規則の内容を決める(改める)のがIFAB。
今回のシンビンについても、IFABがシンビン導入しよっか…?といった方針を固めたためニュースになったのだ。
ラグビーのシンビン
ラグビーでは上記画像のように、ピッチ外に設置されたエリアで座して待機している。
先述の通り、ラグビーではイエローカードが提示されたらシンビンとなるが、サッカーがこれに準拠してしまうと、キーパーのちょっとした遅延行為で一時退出GK不在というカオスになりかねない。
そのためサッカーでシンビンを適用させる場合は、特定の所作をした場合に限られてくる。
なんのためにシンビンを導入するのか
Has it been trialled? Was it a success?
(ちゃんと試したの? 成功したの?)In 2016/17 season there were over 73,000 cautions for dissent – making up around 25% of all cautions.
(2016/17シーズンで73,000回の警告が出されたが、そのうち25%は異議申し立てに対する警告だった)During this period, we saw a 38% reduction in dissent across the selected leagues. It also showed a reduction on dismissals for receiving a second caution in a game and abusive language.
https://www.englandfootball.com/participate/explore/inclusive-football/Respect/sin-bins
(試験期間中に審判に対する異議申し立てによる警告が38%減少し、2回目の警告による退場や暴言も減少した)
※イングランドのアマチュアカテゴリで試験的に導入した結果をもとに作られたレポートです
他の海外サイトと読み比べた結果、基本となるのは審判への攻撃的な機会を減らすため。そして警告を出す機会を減らすため。
試験導入してみると相応の効果が得られているようで、より紳士的なスポーツとしての発展に寄与できる?のではと思われる。
イングランドでの試験導入
この動画はTHE FA(イングランド界のJFA的ポジション)が出しているシンビンに関する動画。
1つ目が際どいコンタクトをした際の動画。
そして2つ目の動画がジャッジに異論を唱えてボールを地面に叩きつけた際の動画。
審判のジャッジに対して悪質な形で抗議をした場合、このように10分間の退場(退出)が命じられる。
イングランドでのシンビン適用手順
ここからはイングランドのアマチュアカテゴリで試験的に導入されていた例を紹介する。
今から記述する内容がそっくりそのまま導入されると決まったわけではないので、あくまでも参考程度にしてほしい。
参考にしたページ
(※上のリンクを押すとPDFファイルがダウンロードされます)
(※下のリンクはシンビンに関する情報をまとめたTHE FAのページが開きます)
なお試験導入時の退出時間については、90分の試合では10分、90分未満の場合は8分間となっていた。
審判に抗議
まず審判のジャッジに意義を唱えた場合、シンビンの対象となる。
このシンビンの対象となる意義(抗議)のとなえ方についてだが、
- 審判に対して大声を出す
┗稀に見かける審判に急接近して大声で抗議するのも対象? - 審判の能力を疑う
┗罵詈雑言を浴びせる行為も対象? - ボールを地面に叩きつける
┗物に八つ当たりする行為も対象? - 皮肉を込めた拍手をする
┗審判を侮辱する行為も対象?
上記の4つが例として挙げられていた。
これらから分かる通り、シンビン対象となるのは審判に対して何かをした場合に限られている。
ラフプレーなどに対してシンビンが適用されることはない。
選手を一時退出させる
イエローカードを提示した上で、選手をピッチ外に退出させる。
なお、シンビン対象の選手を交代させることはできるが、シンビン時間内は交代できない。
そもそもの話だが、シンビンを喰らったからといってもう出場できないわけではない。シンビン時間が終わったら、審判の裁量によって再びピッチに戻ってくることができる。
つまり最終的には再びプレーできるのだが、監督の判断により当該選手を交代させたいと考えた時、シンビン時間内は交代させることができない。10分経過してから交代となる。
ただしシンビン時間中に当該プレイヤーがイエローorレッド相当の違反を犯した場合、試合に戻ることも交代することもできなくなる(=事実上の退場扱い)。
選手を試合に戻す
シンビン時間を満了したら試合に戻ることができるが、戻るタイミングは審判の判断に委ねられる。
先ほど参考にしたと書いたサイトには
How and when does a player re-enter the field of play?
(プレイヤーはいつどのようにしてフィールドに復帰するの?)
Similar to a player who has left the field for treatment for an injury, the player can be waved back onto the field of play by the referee during play.
(怪我の治療で外に出たプレイヤーと同様に、プレー中に審判が手を振ってアピールしてフィールドに戻ることができる)
このように記述されている。
怪我の治療で外に出たケースと同じように、シンビン時間を満了している前提で審判の判断により再びピッチに戻ることができる。
イエローカード(警告)はどう累積されるのか?
ここについては自身の稚拙な語学力では解釈しきれなかったため、曖昧な表現としている。
英語に強い方がいらっしゃれば、この部分についてTwitterなりコメントなりで教えてほしい。
そもそもシンビンとなった(審判に過剰な異議申し立てをした)場合、審判は選手に対してイエローカードを提示してピッチ外に誘導されるはず。
なおプレイヤーが2回目のシンビンを喰らい、このシンビン以外に警告をうけていない場合、2回目のシンビンが与えられ、当該選手はピッチに戻ることができない。だが交代はできると記述されている。
そしてシンビン2回目でなおかつ別の警告を受けている場合、プレイヤーはゲームに戻ることもできず交代させることもできないとある。
これはTHE FAに添付されていた参考画像。
以下の内容は筆者がそれっぽく翻訳したもの。解釈の誤り正しい内容ではない可能性が否定できないため、あくまでも参考程度に読んでほしい。
ちなみに上記画像内で散見されるS7とは、退場理由:警告2回のこと。
警告1回目 | 警告2回目 | 警告3回目 | 制裁内容 |
---|---|---|---|
過剰な異議 | – | – | シンビンのみ |
過剰な異議 | 異議以外の警告 | – | シンビン1回と警告1枚 |
過剰な異議 | 異議以外の警告 | 異議以外の警告 | シンビン1回のあとに累積2枚による退場 |
過剰な異議 | 過剰な異議 | – | シンビン2回目の時点で再出場不可だが交代可能 |
過剰な異議 | 異議以外の警告 | 過剰な異議 | 警告1枚の上、シンビン2回目の時点で再出場不可,交代不可 |
異議以外の警告 | 過剰な異議 | – | 警告1枚とシンビン1回 |
異議以外の警告 | 過剰な異議 | 異議以外の警告 | シンビン1回のあと累積2枚による退場 |
異議以外の警告 | 過剰な異議 | 過剰な異議 | 警告1枚の上、シンビン2回(2回目のシンビンで再出場も交代も不可) |
書いていて気づいたのは、シンビンのイエローカードは警告のイエローカードとは扱いが異なる可能性があるという点。
シンビンとなった際もイエローカードが提示され(るはず)てから外へ出されるはずなのだが、表の通りであれば、例えばシンビン1回目のあとにラフプレーでイエローカードをもらっても退場とはならない。このあたりの細かい解釈については2024年にIFABやらFIFAあたりが正式に発表するだろうから、そちらをちゃんと確認してほしい。
総括
- シンビン試験導入は2024-25シーズンから(24年7月から)
(※あくまでも予定のため変更の可能性もあり) - 導入理由は審判への攻撃的機会、ラフプレーなどによる警告の機会を減らすため
(※その他の理由もアリ) - イエローカード相当だがレッドカード未満の審判に対する侮辱などがシンビン対象となる
- シンビンでイエローカードが提示されても警告累積に加算されない(?)
※要詳細・続報待ち
とりあえず最低限おさえておきたいポイントは以上の通り。
詳細については必ず本稿の各項を読んでいただき、また参考にしたサイトの情報もちゃんと確認してほしい。
余談 VAR適用基準の変更?
国際サッカー評議会(IFAB)は28日に年次事務会議を開催し、来春の年次総会で決定する2024-25競技規則改正点について話し合う予定だ。『タイムズ』や『ザ・サン』などによると、VARの介入対象を広げるべきかも検討するという。
現在VARが介入できるのは得点、PK、一発退場、人間違いのカード提示に関する判定のみ。本来はゴールキックとすべき事象をCKと判定して得点に繋がったり、誤審で2枚目のイエローカードによる退場が起きたりと、試合結果に関わるようなミスをすべてカバーできているわけではない。そこで新たにFK、CK、2枚目のイエローカードによる退場についてもVARの介入対象とする構想があるようだ。
FKやCK、2枚目のイエローカードがVAR対象になる可能性も…IFABが競技規則改正を今日検討へ – ゲキサカ
従来は重大な事項(PK、一発退場、DOGSOなど)にのみVARが介入していた。裏を返せばそれ以外には原則としてVARが介入することはなかった。
だが来年度から競技規則を改正し、フリーキック、コーナーキックなどの審判の判断ミスについても、VARが介入してジャッジを変更する可能性がある。
普段から「なぜあのプレーにVARが介入しないんだ!」「VARが機能していない!」と叩かれがちだったVARだが、今後はその声も減少するかもしれない。
(そのせいでアディショナルタイムがえらいことになりそうな気がするけど…)
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